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2023.01.31

味の素株式会社~グローバル規模でのタレントマネジメント展開~

紹介

味の素株式会社では、世界の食品メーカートップ10クラスに入ることを中期経営計画で経営目標に掲げ、その達成のためにグローバル規模でのタレントマネジメント展開に取り組んだ。

一例として、国内外で「人財委員会」を新たに設置し、定期的にタレントレビューを実施することで、グローバルでの人材データベースの構築を実現し、グループ基幹人材の計画的な育成・登用を達成している。


本記事では、味の素㈱の事例をもとに、タレントマネジメント導入までの経緯、及びその結果について紹介する。

要旨

味の素株式会社

業種:調味料類、調味・レトルト食品、アミノサイエンス事業
売上:1 兆 1,502 億円(連結 / 2018 年 3 月時点)
従業員:連結 34,452 人 / 単体 3,464 人(2018 年 3 月時点)
資本タイプ:日系

背景・課題認識

・2014-2016 中期経営計画にて、2020 年をターゲットに世界の食品メーカーのトップ 10クラスに入ることを経営目標として設定

・ 目標達成に向け、従来の国内を対象とした職能基軸の人財マネジメント(同社では人を企業にとっての財産ととらえ、「人材」ではなく「人財」という語を当てているため、本稿でも以後「人財」の表記を用いる)から脱却し、国内外を問わない優秀人財の特定、育成、配置、および適所適財を推進することの必要性が拡大

・ これらを背景に、2016 年ごろから戦略上重要なポジションの特定、国内外での人財委員会の設置に着手

施策内容や導入時の対応

・戦略実行において鍵となるポジションについては、求められる成果やそのための必要要件を明確化すべく、職務記述書を作成し全基幹職(管理職)に向けて公開

・国内外で人財委員会を設置。グループ基幹人財候補を定期的に確認し、それぞれに対するアクションプランを検討

・グループ基幹人財候補に対しては、それぞれの職務グレードや必要性に基づき研修プログラムを提供して育成

導入後の影響や効果

・施策の丁寧な説明や、成果の顕在化によって、タレントマネジメントの戦略的な重要性の理解が、社員間で徐々に進展

・役員層、事業部門長の候補者プールが国内外で着実に構築

・ 人財の育成面では、グループ基幹人財候補対象の選抜研修の効果が顕在化

今後の方向性・課題

・社員がより自発的に施策へ関わっていくよう、「適所適財」の考え方を基本とした新しい人財マネジメント思想を、さらに社員へ啓蒙することが必要

・優秀人財の特定、育成に加え、今後は積極的な登用につなげることが必要と認識。そのために 2018 年から定期的に人財委員会での議論を開始

背景・課題認識

2014-2016 中期経営計画にて、2020 年をターゲットに世界の食品メーカーのトップ10 クラス入りを目指すことが明言され、飛躍的成長に向けた新たな取り組みが必要となった

特に「積極的な M&A」、「事業の構造転換・改革」、「新興市場へのシフト」、「新規事業への参入」といった、世界規模での活動がより志向され始めた

それに伴い、人財マネジメント上では国内外を問わず、優秀な人財を特定、育成し、必要なポジションに登用できる、グローバルな人財マネジメント体制の強化が急務となった

・これまでも人財マネジメント施策自体は様々な形で実施されてきたが、それらは主に国内を対象としたものが中心であり、グローバル規模での人財データベース等は構築できていなかった

・国内では長年、職能資格を基軸とした人財マネジメントを展開してきたが、いくつかの海外法人では職務等級を基軸とした人事制度を構築していた

・今後のグローバル成長戦略を実現していくためには、国内と海外の人財マネジメント体制に一貫性を持たせることの重要性が認識され始めた

このような背景から、2016 年ごろより一連のタレントマネジメント施策を海外拠点も含めて実施した

・従来の「適財適所」(=人起点)ではなく、「適所適財」(=戦略・職務起点)の考え方のもと、まずは今後の成長の鍵となるポジションの「見える化」に着手した

・ 中期経営計画では「分厚い人財層の形成」が掲げられ、2020 年までに役員層および事業部門長(現在国内で合わせて 120 名程度)の候補者を国内、海外それぞれで 300 名ずつ特定、育成するという目標を設定した

・2 年に 1 回実施される組織文化診断からは、「人財の適正配置ができていない」、「頑張った人が適切に評価されていないように感じている」といった回答も若手社員から寄せられ、次の世代や会社の未来のために変化が必要との認識が広がってきていたことも、施策推進の原動力となった

施策内容や導入時の対応

グローバル規模でのタレントマネジメントを進めていく

主に「戦略を推進する上で重要なポジションの特定、発信」、「国内外の人財委員会による将来のグループ基幹人財候補となる人財の特定」、「グループ基幹人財候補への育成機会提供」を実行した

戦略上鍵となるポジションでは国内外問わず全て職務記述書を作成し、全基幹職に公開

・ポジションの詳細を明確化することにより、当該担当者にとっての目標明確化や、若手社員の育成、配置・登用の際の指針提供といった効果を企図

・職務記述書には該当職務の財務・非財務の責任範囲、職務内容、ミッション、必要なスキル等が明記されている

・ 海外拠点も含めると、作成されている職務記述書は既に 1000 ポジションに及ぶ

将来グループの基幹を担う人財の特定に向けては、国内外で人財委員会を発足し、定期的なタレントレビューを行うことで人財プールを構築

・委員会には各事業・機能を統括する役員が参加する

・ 日本では年に 3 回、海外では年に 2 回人財委員会を実施。日本の場合、初回にタレントの発掘とキーポジションのサクセッションプラン作成、その後、タレントに対する育成・登用計画を策定し、以降の人財委員会では計画(実施)の進捗確認が中心となる

特定されたグループ基幹人財候補の育成においては現行のグレードに応じた研修プログラムを提供し、能力開発を強化

・リーダーシップ研修の初期段階ではファイナンスや経営戦略等の「ビジネスリテラシー」に焦点を当て、グループ基幹人財としての基盤・基礎能力を強化

・更に組織のリーダーとしての素養が高まってくると、イノベーション創出に向け、より最先端の知見の習得やリーダーとしての内面的成熟を狙い、「未来の先取り(将来の環境変化の洞察)・専門領域の深化」や「各自のリーダーシップの現
状把握と強化」といった内容に重点を置いて研修を展開

・事業部長候補クラスには上記に加えて「味の素 Value の実践」に重きを置き、ケーススタディ等を通して、自社の Value を自分事として語る力の強化など、学んだ知見をより実践的な形で経営に活かせるような研修を実施

導入後の影響や効果

施策の企画時点では社内の理解を得づらいことも多かったが、丁寧な社内周知や導入後に徐々に表れた効果の実感によって、経営戦略の実現を支えるタレントマネジメントの重要性が社員に理解され始めてきた

・施策導入時は、「わざわざ人財委員会を設置して、優秀人財の特定を公式に行わずとも、既に誰が優秀かは把握している」との声もあがっていた。また、経営状況が堅調なことを理由に人財マネジメント変革の必要性の切迫感は薄かった

・そのため施策実施に当たっては人事部が国内の各拠点を訪れ、20 回以上もの説明会を通して制度改定の趣旨を伝達。メールでの質問も受け付け、社員の納得感向上に努めた

・施策導入 2 年目からは徐々に施策の効果が顕在化。特に、事業部門長クラスのポジションについて後継人財を可視化していったことで、誰がどのポジションの候補か明確になり、社内から好意的な反応が得られた。ポジションによっては必要な人財の質・量と現状の人財の質・量の間でギャップが存在することも明らかになり、海外拠点や社外からの人財獲得の必要性等も含めてタレントマネジメントにおける建設的な議論が増えていった

グローバルでの人財プールの構築が進み、グループ基幹人財の計画的な育成・登用が実現され始めた

・2014-2016 年中期経営計画では「2020 年までに役員層、事業部門長の候補者を国内外それぞれで 300 名ずつ特定する」という目標が掲げられたが、2019 年 1 月時点で国内は目標達成、国外でも既に 200 名の候補者が特定されている

・グローバルでの人財プールの構築が進んだことで、人財プールに登録された社員が受講する味の素グループリーダーシップ研修においても、以前は参加者の大半が日本人だったのに対して、現在では参加者の 7 割以上(程度)が外国籍社員となっている

・研修の前後で実施されている 360 度評価の数値変化や定性的な社内の声からは、研修受講者の意識・行動面での変化が大きいことを裏付ける結果が得られている。具体的には、未来へのアクションに関する行動変化の数値が上昇するなど、主体的な行動の増加や、健全な危機感の醸成が見られるようになった

・味の素グループリーダーシップ研修の受講者は、研修受講の数年後に約 7 割が昇進・昇格を果たしており、グループ基幹人財の計画的な育成・抜擢が今まで以上に実現されるようになっている

今後の方向性・課題

よりオープンかつ社員目線での情報発信による、社員の自発的意欲や関与の強化

・「適所適財」を前提とする新たな人財マネジメントの考え方や各種施策について、更なる理解や関与を促し、社員と会社の結びつきを強めるために、画一的な形でのコミュニケーションではなく、可能な限り個人に最適化されたコミュニケーションを行いたいと考えている。具体的には、E ラーニングを含めた情報技術の活用など、個人に合わせたきめ細かなサポートを強め、意欲ある人財が手を上げやすい仕組みを検討している

味の素らしさを守り、活かしつつ、時代に合わせて変化していく組織風土の醸成

・食品会社という背景もあり、組織全体として何事も安全に進めるという風土、決めたことはやり切るという風土は長い歴史で育まれた強みである。今後は、味の素らしさを守りつつも、時代に合わせて変化をしていけるよう、個人への働きかけのみならず組織風土を変革していくことも重要と認識している

引用:経営競争力強化に向けた人材マネジメント研究会 報告書(経済産業省)

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