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株式会社フジクラ~役割に基づくグローバルグレードの導入~

紹介

株式会社フジクラでは、事業のグローバル化を一層進めるため、グループの経営基盤として役割に基づく「グローバル・グレード」を導入しました。

従来の職能資格制度から切り替えたことで、報酬制度に納得性をもたらしただけでなく、優秀な人材の中途採用にもつながっています。また、従業員のキャリア形成にも良い変化をもたらしているといいます。

本記事では、「役割と報酬の不整合」な現状に危機感を持った、フジクラの人事部門が「グローバルグレード」をどのように経営層に提言し、社内に導入したかを紹介します。

要旨

株式会社フジクラ

業種:非鉄金属
売上:7,400 億円(連結 / 2018 年 3 月時点)
従業員:連結 58,422 人 / 単体 2,596 人(2018 年 3 月時点)
資本タイプ:日系

背景・課題認識

・ 従来の職能資格制度下で役割と報酬の不整合が発生。組織パフォーマンスへの悪影響が懸念された

・ 事業のグローバル化、海外比率の高まり等から、人事制度の変化の必要性を現場レベルでも認識

・ これらを背景に、グループ経営基盤として役割に基づくグローバルグレードを提案・導入。本社より順次グループ内へ展開中

施策内容や導入時の対応

・管理職層に導入、報酬水準は等級ごとに市場水準にリンク

・ 導入時は報酬水準の引き下げは経過措置で緩和しつつ、中長期的には適正化

・ 事業のグローバル化等を背景に、現場での受け入れも大きな抵抗は無かった

導入後の影響や効果

・グループレベルでの異動・配置、外部からの人財採用等に資するものとなっている

・ 従業員自らがキャリアを考え、働き方を決める風土が醸成されつつある

今後の方向性・課題

・グループレベルでのタレントマネジメントへの活用を展望

・ 人事部門として今後、グローバルレベルで機能し、経営の競争力向上へ貢献することが重要と認識

背景・課題認識

長らく職能資格制度を運用してきたが、従業員の年齢構成の高まりによって、役割と報酬の整合性が取れなくなりつつあった

・若く優秀な人財が管理職に就いたケースで、上司部下間で報酬の逆転が生じ始めた

・ 役割の重みが増すにも関わらず、職能資格が低く報酬が十分に上がらないことに対して、管理職への昇進に消極的になる風土が生じるようになった

・直接の因果関係はわからないものの、30 歳前後の従業員の退職が目立ち始めた

「役割と報酬の不整合」を放置すると、優秀な人財を重要なポジションに登用できず、組織パフォーマンス全体に悪影響が出る、という危機感を持つに至った

・事業においては海外売上比率が相当高くなってきており(現在は 7 割程度)、グローバル基準の人事制度へと変えていく必要性を現場レベルでも感じつつあった。

・昔は国内のインフラ事業が取引先の中心だったが、現在は売上の 7 割が海外。変化の激しい業界でもあり、人事制度に関する世の中の流れを多くの従業員が感じつつあった

このような背景から、人事部門から経営に対して問題提起を行い、会社の「将来への備え」という位置づけで、グループ経営の共通基盤として、従来の職能資格制度から役割に基づくグローバルグレード体系への変更を提案し、導入に至った

・事業環境の変化やコスト削減の要請ではなく、組織のパフォーマンスを高めることがねらい

・ 国内グループ会社およびグローバル含むグループ全体への展開を想定しながら、まずは本社国内制度の改定を実施。現在、国内グループ会社およびグローバルへの展開を進めている

施策内容や導入時の対応

管理職層については役割等級で7段階(非管理職は職能等級で6段階)。管理職クラスは組織マネジメント系と専門職系の二系統に分かれている(ただし等級段階数や処遇は組織系・専門系ともに同一)

・非管理職は主に、製造直接業務に従事する技能職、事務系業務を担う一般職と、いわゆる大卒総合職である企画専門職に大別される

・役割の定義は、職種や等級という単位で行われており、ジョブディスクリプションは設定していない。役割の大きさの評価はコンサルティング会社の手法を用いて行われている

・管理職においては、具体的な役割の変更が昇格(降格)の要件としている(非管理職では昇格試験や TOEIC などの要件も整備している)

管理職層を 7 段階とやや細分化しているが、これは、役割と報酬の連動の納得感を強めるとともに、将来幹部候補を目指す人財のモチベーションやリテンション向上の意図もある

・基本給の主要部分は等級毎のレンジ給、昇給はメリットインクリース方式

・ 新人事制度導入に伴って手当の大半は廃止され、大半が役割に基づく基本給に集約されている(非管理職はこの限りではないが簡素化の方向)

・ 賞与は夏冬の支給で、半期ごとの会社業績・部門業績・個人評価に基づいて連動

評価制度は、MBO(目標管理)とコンピテンシー評価の2つ。MBO は賞与、コンピテンシー評価は年次昇給に反映される

・MBO は絶対評価、コンピテンシー評価は相対評価である。MBO は目安となるような評価分布のゆるやかなガイドラインを設定している。コンピテンシー評価はグループ横断的な人財管理のため、新制度導入に伴い分布ガイドラインを統一化する予定

役割・ポジション数の見直しは年に一度行っている

・各部門のポジション数と要員数を経営へ開示し、そのバランスが取れるよう調整している

・ 組織設計のガイドラインを設け、各部門内の要員数と管理スパンが適切な範囲に収まるよう促している

・各ポジションの役割サイズを定期的に見直し、是正している。人事部門としては、このメンテナンスにかかる実務上の負荷が大きい。しかし、社内の各ポジションが実際にどの程度の重みを持つかを明確化することは重要

導入時は、等級体系の変更により報酬水準に大きな影響が出る場合には緩やかな経過措置(調整給)を導入しつつ、中長期的には適正化

・新制度下で実質「降格」に近い影響を受ける従業員もいたが、移行時に報酬を下げることはしていない。ただしその人がポジションを外れた際には、適正な役割サイズへと是正している

導入に際しては、事業サイドや現場からの反対はそれほど起きなかった

・ 上記の報酬面の経過措置だけでなく、前掲のとおり、事業のグローバル化、海外比率の増加等を背景に、全社的に、人事制度に関するグローバル化の流れや要請を感じていたことも一因

・ 経営や部長層からは、新制度移行の影響に関し懸念や不安も示されたものの、
本来の目的・主旨を説明し、議論を尽くすことで、合意に至った

導入後の影響や効果

新たな等級体系は、本社からグループ会社へ異動する際の「道標」になっている

・「栄転」となる異動パターンとしては、【本社課長】⇒【グループ会社部長】⇒【本社部長】

・ 異動により「肩書や報酬が下がる」ケースでは、調整給によりソフトランディングさせている

優秀な人財を中途で採用できるようになってきた

・これまでは社内秩序を優先して新卒社員の給与を前提として報酬水準を設定していた

・ 新制度下では、市場水準に合わせた報酬レンジを設定することで、外部の優秀な人財を獲得しやすくなっている

従業員のキャリア観にも良い変化が生じている

・ 人事部門としても「職能に基づく昇格モデル」というキャリアモデルからの変化を意識付けようとしている

・ 「能力が高いか低いか」だけではなく、「自分がやりたい仕事・役割は何か」にもとづき、従業員自らがキャリアを考え、働き方を決める風土が醸成されつつある

今後の方向性・課題

グループ経営の共通基盤として、グローバルグレーディングの関係各社への導入を進めている

・本社の等級体系を世界標準に合わせた上で、まずは足元の国内グループ会社、そして徐々に海外子会社へも広めていく計画である

・現在はアジア地域への導入を進めている。北米地域は買収した組織が多く自立性が高いため、役員報酬のガバナンスに留める意向である

・ 国内では、ホワイトカラーへの導入は完了し、今後はブルーカラーも検討する。しかし年功的な昇格や組合員層が多いことから、導入へのハードルはやや高いだろう

・ また、個人での仕事が多い技術系にはフィットしやすいが、チームでの仕事が中心で業務も市況により変化しやすい営業系では、役割に基づく運用は少しやりづらい面もある

今後、タレントマネジメントへの展開に向けて、ポジションと候補者プールを一元的に管理したい

・グループ会社が 100 社以上もあるためそのトップを決めるだけでも大変だが、トップとその 1 つ下のポジションまでは、計画的に管理・人選を行いたい

・ 社内にいる人財の評価や経営者としての資質を可視化することが必要であり、今後は外国人や女性を含む多様な候補者プールを形成・管理していくことが課題だ

・ 現状、組織・ポジション・人財を一貫して管理できるシステムがなく、それぞれの担当者がバラバラに対応している状況

・ 将来的にはポジションと等級の関係をオープンにすることで、組織やポジションの適正化や従業員間の良い意味での緊張感の醸成に繋げていきたい

本社人事機能のグローバル化も今後の重要な課題

・現状、各事業部門が必要に駆られて独自に人財の採用や配置を行っている。多様な事業が存在するため、本社の人事部として全ての事業の人財マネジメントを管理できていないのが現状である

・制度や仕組みは本社人事で作れるが、戦略的な人財マネジメントを主導するためには、人事機能自体のレベルを高めていかなければならない

また、これからの人事部は、経営に貢献する施策を、根拠を持って提案・実行することが不可欠と認識している

・過去の制度では、「現場を回る」「人を知る」ことが人事施策を進める上で重要だったが、海外のグループ会社にはその理屈が理解してもらえない

・新制度では、「役割」という共通かつ客観的な仕組みをグローバルで統一化したことで、各ポジションに最適な人財を選び配置していく下地ができた

・会社の競争力を高めるために、人事部として根拠を持って施策を提案し、付加価値を創出していかなければならない

・ゆえにこの取り組みは、単に等級体系の改定・統一化にとどまらず、これからの人事部門の存在意義を自ら問い、それに向き合っていく取組みでもあると考えている

引用:経営競争力強化に向けた人材マネジメント研究会 報告書(経済産業省)

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