外国人材が長く働きたい会社とは?企業に求められる環境づくりと制度の活用
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豊田通商株式会社では、変化し続けるビジネス環境や、多様化し続ける顧客ニーズに対応するため、ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)を社内で明確に定義し、グループ会社一丸となって推進を行っています。
例えば「ナショナリティ(国籍・文化)」の観点においては、フランス人の本社役員への登用や、日本人以外のハイパフォーマーも参加する「グローバル研修」の開催等、国籍にとらわれない登用や人材育成を実施し、グローバル視点で適材適所な人事配置につなげています。
本記事では、豊達通商㈱が、D&Iをどのように定義し推進を進めたか、またその結果、社内にどのような効果をもたらしたかについて紹介します。
業種:総合商社
売上:6 兆 4,910 億円(連結 / 2018 年 3 月時点)
従業員:連結 56,827 人 / 単体 3,571 人(2018 年 3 月時点)
資本タイプ:日系
・豊田通商では、事業のグローバル拡大に加えて、ビジネスモデルの変化・多様化が進んでいる。従来からの強みであるトレーディングビジネスモデルに加えて、大型の事業投資や海外発の新規事業創造など、国内外・グループ内外との共創を進めていくこと
が、今後はますます求められている。
・多様なビジネスを行うためには、多様な人材を意欲的に受け入れ・強みを活かすダイバーシティ&インクルージョン(D&I)を推進することが、経営戦略上、重要になっている。
・D&I の取り組みは、「ジェンダー(女性)」、「ナショナリティ(国籍・文化)」「エイジ(年齢)」「M&A(企業文化融合)」の 4 つの観点から取り組んでおり、ソフト・ハードの両面から様々な施策を打ち出している。
・ジェンダー(女性):2014 年の D&I 宣言発表以降、現場の意識を変革するべく、すべてのライン長に対して D&I 検討会を開催した。2017 年の本社人事制度改定では、業務職(一般職)・担当職(総合職)の職域区分を撤廃し、ライフイベントを尊重しつつも、本人次第で活躍の場を広げられる仕組みへと転換を図っている。
・ナショナリティ(文化・国籍):選抜型研修の参加者に日本人以外のハイパフォーマーを含めるなど、国籍を問わない育成・登用機会の提供を進めている。2016 年にはグローバルのメンバーも巻き込んで「Global Vision」、「グローバル行動倫理規範」を策定するなど、グローバル視点での D&I を推し進めている。
・エイジ(年齢):2017 年の本社人事制度改定では、若手が年次に関わらず昇格できる仕組みを取り入れる一方、旧担当職(総合職)の社員も地域限定職として働ける仕組みを導入するなど、年齢・ライフイベントに関わらず活躍しやすい環境の整備を進めている。
・D&I の取り組みをより一層の成果につなげるべく、多様な人材が活き活きと働ける職場、チームで成果を出す職場へと変革を遂げるための「いきワク活動」を 2014 年より開始し、2017 年からは 2 年間で全社全グループが活動を進めている。
・人事制度改定の結果、旧業務職でグローバル職にチャレンジする社員や、管理職に昇格する社員が増えてきている。ナショナリティの観点では、本社役員に外国籍社員を登用するなど、国籍に捉われない適材適所の人材配置を進めている。
・2014 年から開始した「いきワク活動」では、「やりがいを持てる職場づくり」、「業務分担の見直し」、「残業削減」などのテーマに各部署が取り組み、65%の社員から引き続き活動を継続していきたいという声が上がっている。
・本社人事制度の改定は国内の D&I を推し進める大きな一歩となったが、変化に対してネガティブな層も一定数存在するため、今後、更なる対話・意識変革を進める必要がある。ナショナリティの観点からは、海外拠点の経営ポジションなど、適材適所の観点で最適なアサインを今後も検討していくことが必要である。
・従来からの主力である Mobility 分野に加えて、 Life & Community 、Resources & Environment といった分野においても新しいビジネスが育ってきており、事業ドメインが急速に拡大・多様化している。
・ビジネスモデルに関しても、従来からの強みであるトレーディングだけでなく、海外大型投資の企画・実行や、海外発で新規事業を立ち上げるなど、多様化が進んでいる。
・これらのビジネスを進めるためには、国内・グループ内はもちろんのこと、より広く・高い視座を持って、海外・グループ外のパートナーと共創を進めて行くことがますます重要になってきている。
・トレーディングビジネスで強みを発揮する BtoB 営業ができる人材に加えて、多様なネットワークを武器に海外パートナーと新しいビジネスを創る人材や、財経や法務等の専門性を駆使して連結経営のリスクを先読みできる人材など、人材ポートフォリオの多様化を戦略的に推し進める必要がある。
・主要テーマとして、「ジェンダー(女性)」、「ナショナリティ(国籍・文化)」「エイジ(年齢)」「M&A(企業文化融合)」の 4 つを定め、ソフト・ハードの両面から様々な施策を展開している。
▶ D&I の中でも、女性の活躍推進は最も初期から着手された取り組みの一つである
・2000 年ごろから、業務職(一般職)の職域を拡大する取り組みに着手している。担当職(総合職)としての登用開始や、選抜型研修・階層別研修の充実などを通じて、意識変革やスキルの形成支援を行ってきた。
▶ 2014 年、当時の社長が D &I 宣言を発信したことを契機に、これまで以上に取り組みを強化していく機運が全社的に高まった。これら一連の活動の中でも、女性の活躍は最優先で取り組むべきテーマとして位置づけられた
・施策は、①D&I な会社風土、②個人の意識、③働き方と支援の制度、④活躍の場・機会の拡大、という 4 つの観点から企画・実行された。
・初期はソフト面の施策(①②)に重点的に取り組んだ。背景として、意識変革研修等によって、女性のマジョリティである業務職の意識に変化は見られ始めたが、旧来の発想から脱却し切れない、上長や同僚が依然存在したことが挙げ
られる。女性のみならず、組織全体の意識変革が必要であった。
・具体的には、D&I の意識を現場まで根付かせていくために、管理職向け D&I検討会に取り組んだ。2014 年、役員を皮切りに、部長・室長/GL など、すべてのライン長を対象に、本人参加型の検討会を開催した。すべてのライン長がD&I に関わる目標設定を行うことで、現場にコミットメントを求めた。
▶ ハード面では、担当職(総合職)と業務職(一般職)の区分を撤廃する新人事制度を2017 年に導入した
・業務職に関しては、トレーディングがビジネスの中心だったころは、貿易実務など、主に事務的な業務を担っていたが、事業環境の変化に伴い、徐々に業務範囲が拡大していた。担当職の業務を一部担う社員も多く現れるなど、担当職と業務職の業際の希薄化が進んでいた。一方で、担当職・業務職という制度上の区分の存在が心理的な垣根として作用し、本人が活躍の幅を広げようとすることを妨げる側面もあった。
・新人事制度では担当職と業務職の区分を撤廃し、国内外転勤のあるグローバル職と、転勤のない地域限定職に再区分することで、担当職と業務職の垣根を取り払った。加えて、地域限定職社員も管理職になれる仕組みにすることで、旧業務職社員でもマネジメントにチャレンジできる環境が整った。
・新人事制度の導入と並行して、ソフト面の変革も更に推し進めていった。旧業務職向けに D&I フォーラムを開催し、D&I が必要な背景を丁寧にコミュニケーションした。参加者同士のディスカッションを通じて、旧業務職自身が自らのみを再認識し、打席に立つ(より難易度の高い仕事にチャレンジする)覚悟・情熱を涵養することができた。
▶ 新人事制度の導入に当たって、当初は一部の現場上長から反発もあった。しかし、課題への対応策を丁寧に説明・提案することで、円滑な導入を実現できた
・特に、旧業務職に対して、今までと異なる業務を任せることへの戸惑いが現場上長に多く見られた。対策として、「業務見える化プロジェクト」を行い、すべての現場業務の棚卸と、旧担当職・旧業務職の分担の再検討を実施してもらった。結果、仕事をアサインする上司、仕事をアサインされる部下、双方の納得感を醸成することができた。
▶ ビジネスがグローバルに拡大するにつれて、海外連結子会社が急増。それに伴い、グループで働く社員の国籍・文化の多様化が急速に進んでいった
・とりわけ、2012 年にフランスの大手商社 CFAO への資本参画を行った(2016年末に 100%子会社化)ことで、グループ連結人員構成に占める日本人以外の比率が一段と増えた。
▶ こういった事情を背景に、ナショナリティ(国籍・文化)の切り口からも、D&I を積極的に推し進めてきた
・例えば、2013 年より、グローバル経営を担うトップ人材の育成を目的にした、グローバル研修(GALP)を開催している。海外ビジネススクールと連携したアクションラーニング型の研修で、日本人以外のハイパフォーマーも参加している。
・2016 年、多国籍のメンバー構成で議論を重ね、「Global Vision」、「グローバル行動倫理規範」を策定した。国籍・文化・言語等の違いを超えて、豊通グループとして一体感を醸成していく下地を作ることができた。
▶ 本社の人員構成を見ると、グローバル職(旧担当職)のうち、10 年後のマネジメントを担う社員(30 代)の数が他の年齢層に比べて少なく、若手の早期育成が大きな課題となっていた。一方、40-50 代の社員には、介護等のライフイベントと折り合いをつけながら働いている社員も増えてきていた。2017 年の人事制度改定では、これらエイジに関わる課題も解決できる施策を織り込んだ
・若手社員の登用に関しては、昇格の最低年次要件を撤廃したことで、年次に関係なく昇格できる仕組みを整備した。
・ライフイベントへの対応支援という観点からは、グローバル職と地域限定職を行き来できる仕組みとしたことで、旧担当職の社員でも、ライフイベント時には勤務地を限定した働き方を選択できる仕組みにした。
▶ 定年延長の流れなどもあり、今後、年齢に関わらず長く第一線で活躍し続ける社員を増やすことが大きな課題であり、シニア層の意識改革も大きなテーマになっている
・キャリアの終盤に差し掛かっても、後進の育成や自身の専門性・知識を活かした貢献ができる社員もいるが、逆に、働く意欲が薄れてしまう社員も一定数存在した。こういった状況を打破するべく、シニア社員向けに、キャリア開発研修、キャリアカウンセリングの提供を行い、意識・行動の変容を促がしている。
・キャリア開発研修は 50 歳代の社員を対象に実施している。過去のライフイベントや自身の職務ヒストリーを振り返ってもらうことで、自身が持っている価値観を改めて確認する機会を提供している。
▶ D&I を全社で推進してきた結果、多様な人材と職場で働く機会こそ増えたが、なかなかうまく協働できないという課題が見られるようになった(例:時短勤務社員、年上の部下など)。こういった課題意識を踏まえて、多様な人材が活き活き働く職場、チームで成果を出す職場を実現するべく、「いきワク活動」を 2014 年より取り組んでいる
・いきワク活動は、職場のありたい姿と現状のギャップを認識し、職場のメンバーが自律的にそのギャップを埋めていくことで、最終的にはメンバーがより「いきいきワクワク」働けるようにするための活動として位置づけている。
・新人事制度を導入したことにより、旧担当職と旧業務職の区分が消滅したことが、いきワク活動導入の一つの契機となった。職種統合によって、時に残業も発生する旧担当職の業務を一部受け持つことに対して、子育て中の旧業務職社員から不満の声が上がっており、職場レベルの相互理解が必要だった。
▶ いきワク活動では、グループや室といった職場単位で、それぞれが抱えている個々の働き方に関する希望や悩み、また職場全体での改善が必要と思われる内容を率直に議論し、それに対するアクションを実行してもらった
・2017 年より 2 年間で全社全グループが活動を推進し、職場をより生産性の高い組織にするためのテーマに取り組んでもらった。
・社長からの全社向けメッセージの発信、階層別の説明会の実施などを通じて、施策に対する理解浸透を図った。またグループリーダーやグループメンバーに対しては、ファシリテーションスキル養成の研修を実施した。
・年間の取り組みとして 6 月から職場単位での活動が始まり、1~2 週間に 1 回のペースで「いきワク会議」が開催され、時宜に適った議題を討議してもらった。「いきワク会議」は 12 月ごろまで定期開催され、最初はありたい職場のイメージ、現状把握などから着手し、その後は、ギャップを埋めるための活動の検討・実施に焦点を移していった。年度末の 1~3 月には、グループでの活動を振り
返ってもらい、他グループも交えての事例共有会なども開催した。
▶ 活動を進めるにあたり、人事からは、先述の研修に加えて、活動の目的や進め方を記したワークブックの配布、活動の現場支援としてファシリテーションの代行・補助、各種相談対応、「サポーター(組織内活動支援者)」の育成・派遣によるノウハウ提供など、多面的な支援を行った
新人事制度の導入から 1 年以上が経ち、地域限定職からグローバル職へと移行する社員が多く現れてきている。また、旧業務職者で管理職に昇進する社員も出てきており、旧業務職の職域拡大という観点からは、目に見える成果が出始めている。
豊田通商の強みと CFAO 社の強みとを更に掛け合わせるべく、初の海外本部であるアフリカ本部を設立し、CFAO 社長(フランス人)を豊田通商本社の役員に選任した。豊田通商アメリカの副社長(アメリカ人)も本社役員に登用したことで、国籍にとらわれない適材適所の人材配置を進めている。
シニアを対象にしたキャリア開発研修では、今まで自分のキャリアを顧みる機会がなかった社員に対して、自律的に仕事の意味を見出し、組織に貢献していけるように促すきっかけを与えることができている。
テーマとしては「やりがいを持って働ける職場づくり」、「残業削減」といった個人の働き方に関するものや、「業務効率化」、「優先順位設定」、「業務分担の見直し」、「新規顧客獲得」といった業務改善に関するもの、「交流ランチ会」といった組織の関係性向上につながるテーマなどを設定。それぞれの職場ニーズに応じて多様な取り組みが実行され、社員の約 65%から、活動の継続を望む声を得ている。
例えば、職種統合によって、自分の責任範囲が増えたことに不満を持っている旧業務職の社員も残念ながら一部存在する。そういった社員に、いかにして新たなチャンスを魅力に感じてもらうかが今後のテーマである。
ビジネスの状況等も慎重に見極めたうえで、さらなる適材適所の登用を進めていくことが求められている。
引用:経営競争力強化に向けた人材マネジメント研究会 報告書(経済産業省)
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